恋するウサギちゃん速報

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何よりも広い行間

数学が好きだ、いつから好きになったかは覚えていないが、物心着く頃には好きだった。大学は数学科へ進んだ、そこで初めて数学書を読んだ。数学書というのは不親切だ。例えば本では、AよりBが従う、という一行の記述しかないが、なぜそうなるかは書かれていない。僕らの世界ではこの様に本などで発生する論議の飛躍を行間と呼び、僕らはそれを補うことを行間を埋める、と呼んでいる。

お酒が好きだ、正確にはお酒というより飲みの場が好きだ。これについてはいつ好きになったかは覚えている。浪人生の頃バイト先の先輩に飲み屋に連れて行って貰えてからだ。よく連れて行って貰えたが大人数で行くためサシで飲むということはなかった。だが、大学生になって初めてサシ飲みをすることになった。異性と二人で飲むことになった。普通に飲んで普通にカラオケで夜を明かして普通に朝電車に乗って帰る、というだけだったが人生において全くもってない経験だった。そもそも異性の友達はおろか、知り合えさえほとんど居ない人生を過ごしてきた自分にとっては彩やかすぎる1日だった。今振り返れば、この日を機にこの人に対して恋心に近い感情を抱いていた。それから1ヶ月経つころにまた誘われた。話を聞いて欲しい、という内容だった。繁華街に集合し適当な飲み屋に入る。本題には入らず互いの近況報告をしながら酒を飲む。好きな歌の歌詞で、酒を飲むペースが上がるにつれ、話す速度が落ちていく、というものがあるが僕達は酒を飲むペースに比例して話の速度は増してった。そこで向こうが本題に入る、聞いて欲しかった話の内容だ。特に前置きもなく語り出す。

5つ位上の男の人と会って家行って1回抱かれて〜

ここで一度思考が止まった。いや、思考がフル回転したのかもしれない。まず、どこでその男と接点を持ったのか、そして家に行ってから抱かれるまでにもうちょい何かあるだろ、等の疑問が頭に浮ぶ。平然を装い最後まで話を聞くと、どうやらその一晩限りの関係が忘れられない、という内容だ。生きてきた世界が全くもって違うのだ。何か偶発的なものが掛け合わさって異性と二人で会うという奇跡が起きた僕とは違い、彼女にとっては異性と二人きりで会う(そして抱かれる)ということは日常の一コマであり、ありふれたものなのだ。ここからの記憶は定かでは無い、恐らく前と同じようにカラオケに行き、前と同じように朝電車に乗ったのだろう。ただ唯一覚えていることは夢中で酒を飲み、トイレで地獄のような気分を味わいながら嘔吐したことだけだ。

 

この話から2年経つ今、まだ数学は好きで数学書を読むが、1回抱かれて、よりも広い行間に出会ったことはない。恐らくどれだけ生きてもこの行間が埋まる(埋められる)ことはないのだろう。